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物理化学研究室近況報告

田口 哲


2000.8.18

 更新をさぼっていまして,気がつくと半年以上更新されないままになっていました(忙しくて更新している時間がない。HPの更新は優先順位の最下位にせざるをえません。でも,更新されないHPって読まれなくなってしまうものですよね)。この間,初めての大学院修了生を教育現場に送り出し,新たな4年目一人も研究室に配属されました。これから,いよいよ本格的に卒論の実験が行われることを期待しています。
 一方,この間,国立大学の独立法人化移行への方針が文部省によって発表されたり,本学のキャンパスプランが本格的に検討されはじめるなど,大学の「生き残り」合戦が本格化してきました。「容れもの」の議論も大切でしょうが,もっと大切なのは我々一人一人が出来る限り「質の高い教育・研究」を行っていく事でしょう。その一人一人の仕事が,大学という「組織体」の中でどの様な位置づけにあるかを再確認する事は必要だと思いますが。そこで,この半年間の反省も兼ねて,どの様な仕事を行ってきたか振り返ってみることにします。

教育活動関連

物理化学I
 これまでの経験から,私が一方的に講義を行い黒板に解説を板書していくやり方では,確かに,まじめに板書をノートに写しているのですが,授業中に,私の解説を自分の頭で再構築して「理解しようとしている」のかは甚だ疑問でした。そこで本年は,次の点に関して,従来にも増した工夫をおこない授業を進めてきました。

 第1点目は,「授業中に学生が自ら考える」環境を作り出すため,どんなに些細なことでも既習済みの事項に関しては,私が説明してしまうのではなく,学生に質問して答えさせるという授業スタイルをとった点です。以前から,このスタイルはとっていたのですが,今年は,さらに事細かく学生に質問をして答えさせながら授業を進めていきました。例えば,中学校の理科で学ぶような内容に関しても敢えて質問しました(もちろん,もっと高度な内容の質問もしますが)。

 例えば,次のようにです。「仕事って何ですか?」「力とエネルギーはどの様に違うのですか?」「中学校で学ぶエネルギー(仕事)の単位kg重mの“重”って何ですか?」「気体の温度が高い状態というのは,一言で言うと物理的にどのような状態ですか?」「温度が高い状態と低い状態ではどちらが内部エネルギーが大きいですか?」などなど。

 このように,どんどん学生に質問して答えさせていきながら授業をやるメリットには,次の事が上げられます(学生にとっては辛いことかもしれませんが)。一つに,学生は「何時,自分に質問がまわってくるか分からない」ので,一定の緊張感をもって授業に参加します。当然,私の話を常にfollowしていかないと質問の意味が分かりませんので,いやでも,「授業中に頭を働かせざるを得ない」のです。二つ目に,「この程度の事はいくら何でも分かっているであろう」という(誤った)前提で授業を進めてしまう事を防ぐことが出来ます。実は,「この程度の事」すら分かっていないことが多いのです。例えば,中学校で学ぶ「力とエネルギー」がちゃんと区別されていない学生が半数程度います。中学校理科の教員免許を取ろうとして入学している学生がこのような状況で大変悲しくなってしまいますが,これが現実です。当然,質問に答えられない学生もいるわけですが,その時は,「とばして次の学生に当て直す」という事はしません。しばらく待ちます。それでも答えられない場合は,学生が何とか答えられそうなレベルまで質問を構造的に細分化し,細分化された質問を一つ一つ答えさせていって,最終的に要求していた質問の答えまで持っていきます(私の研究室の院生はこのやり方を称して「誘導尋問」とよんでいます(笑))。そうすることで,一見難しそうに思える質問でも,「考えれば分かる」という自信をつけさせようとしています。

 しかしながら,このやり方には一つのデメリットがあります。それは,“時間がかかりすぎる”ことです。その結果,予定した範囲を終えることが出来ません。一方で,時間をかけずに「流すように」授業をやると,学生は授業内容を全然理解しないまま放置します。このジレンマの中,何とか解決策を見いだす必要がありました。私の場合,授業で最も時間を費やすのは,「板書」でしたので(かなり詳しく整理しながら板書していた),その時間を何とか削って学生との対話の方に時間を割く工夫を試みをしなければなりませんでした。

 そこで,第2点目に,教室にノートパソコン(Macintosh PowerBook)と液晶プロジェクターを持ち込んで,プレゼンテーションソフト(Microsoft PowerPoint)で授業のポイント事項やわかりやすい図を提示しながら授業を進める工夫を行いました。すなわち,今まで板書していた内容の一部をデジタル画像としての提示に切り替えたのです(もちろん,あとで復習できるように学生には提示した内容のハードコピーも渡しました)。これにより,これまで黒板に板書していた内容の一部を瞬時に提示できるようになりましたので,学生との対話(質問)の時間を授業中に確保することができました。プレゼンテーションのコンテンツは授業前日までに予め作っておかねばなりませんが,これにはかなりの労力を要しました(PowerPoint自体の操作は全然難しくないのですが,質の高いコンテンツを作ろうとすると相当時間がかかるのです)。

 「板書の時間の節約」以外の,PowerPointを使って授業を行うメリットは,次の点が上げられます。一つ目に,黒板に書くよりは「より綺麗でわかりやすい」情報を提示出来る点です。「動きのあるコンテンツ」も簡単に作って提示できます。二つ目に,思考の流れにそって情報を送ることが出来る点です。三つ目に,一度作ったコンテンツは翌年以降も再利用可能ですし,修正等も簡単に出来ます。四つ目に,作ったコンテンツを簡単にHTML化できるので,Web上で授業内容の公開が出来ます。これは,一度授業を聞いた学生にとっては復習として,意欲のある学生にとっては予習の際に役立ちます。

 このように述べてきますと,PowerPointを使った授業は良いことずくめのようですが,実は次にあげる問題があります。一つ目は,コンテンツの作成に結構時間がかかる事です(2年目からは楽ですが)。教育だけに時間を割くわけにもいきませんので,それなりに負担になります(というのは外から見れば言い訳にしか見えませんが)。二つ目は,コンテンツがどんどん「流れて」いくので(板書と違い自分でノートを取る事がないので),内容が記憶に残りにくい点です。私の場合,数式などは板書してアナログ(黒板)・デジタル(プレゼンソフト)を併用して授業を進めましたが,「すこしPowerPointに頼りすぎたのではないか」という自己反省をしています。90分間,全てPowerPointだけでやると学生もダレてきますので,それは出来るだけしないようにしましたが,学期の後半は時間不足もあって板書を減らし過ぎました。情報を伝える「効率」は,授業者の立場では,黒板による板書よりデジタル情報の方が上に一見思えますが,情報を受け取る学生の立場から見れば必ずしもそうではないのかもしれません。授業における,アナログ・デジタルのバランスに関しては,今後の課題です。

 第3点目の工夫は,毎週課していた演習課題の添削後の返却を可能な限り早めた事です。これによって,まだ記憶が新しいうちに授業内容の復習ができるようにしました。

 このような工夫をして授業を行ってきましたが,最終試験の結果は次の通りとなりました。1回目の試験で合格した学生は2名。再試験で合格した学生は3名。再試験でも合格ラインに到達せず口頭試問まで行って何とか合格した学生2名。今回は,不可の学生は何とか出ずに済みましたが,日頃からの勉強があまりにも足りない学生が多いというのが私の感想です。

化学実験III
 化学実験IIIに関しても,「ただ実験を操作としてだけやって,ちゃんと考察もせず,レポートを出して終わり」という事が無いように以下の工夫を行いました。

 第1点目は,今年から,自分たちがその日に行う実験内容について,口頭試問を課すことを実践しました。毎年,「必ず実験前までに予習せよ」と指導しているにも関わらず,全く予習しないまま授業に参加しているものがあまりにも多いので,このような実践を行いました。実験の準備を始めてひと段落した時点で,学生が,その日の実験について自ら説明を行います。また,実験内容に関わる理論的背景についての質問も行いました。その結果「内容を理解していない」と判断された場合は,ちゃんと説明ができるまで,厳しいかもしれませんが,実験は行わせず徹底的に考えさせました。

 この結果,例年よりは実験内容を理解した状態で実験を行っている学生の割合が増えたとは思います。しかし,その日使う溶液を試薬から調製する際に,“濃度の計算の仕方が分からない”学生もいまだに散見されていますので,来年度からは口頭試問事項をもっと体系的に考える必要があるかもしれません。

 第2点目は,レポートを受け取ったら出来る限り早く添削して本人に返却して,次のレポートに生かしてもらおうとしたことです。

 第3点目は,データ解析にあたってコンピュータを積極的に使用させ,「コンピュータに対する抵抗感」を出来る限り緩和させようとしたことです。これは,現在教員の資質として要求されている「情報リテラシー」を身につけさせるための一方法として行いました。この為に,化学測定室に(多少古い物ですが)ネットワークで接続されたMacintoshを2台用意して,グラフ作成・印刷・データ保存をこれらで行いました。データ保存(バックアップ)は,研究室にある"AppleShare IP Server"が走っているホストに接続させて行わせました。また,電子メールが使える環境にある学生は,レポートを電子メールで添付ファイルの形で提出することを推奨しました(もちろん,そのような環境を持っていない学生もおりますので,成績には反映させませんでしたが)。

  第4点目は,昨年の試運用を経て,化学実験IIIのWebサイトを本格稼働させ,シラバス・テキスト・スケジュール調整・質問受付・関連情報提供などを一元的に行うようにしました。これにより,意欲ある学生はどんどん情報を手に入れることが出来るようにすると共に,先ほど同様,「情報リテラシー」を身につける機会の提供を行いました。

  以上が,化学実験IIIで工夫した点ですが,祝日等にぶつかり休講が多く,正規の授業時間外に実験を行わねばならない事が何度かあった事と,出張で院生に面倒を見てもらわねばならないことが多かった点が今年度の反省点です。    

研究活動関連

論文投稿
 化学教育に関する論文の執筆と投稿,情報教育関連の論文の執筆と投稿を行いました。また,三月・七月には学会発表(電気化学・化学教育)も行いました。
実験・研究
 実験の方は,院生の今渡君が,Au(111)電極へのZn UPDに伴うアニオン吸着の特異性を明らかにしつつあります。今後の進展が楽しみです。また,修士1年に進学した藤井君は,「理科教育における物理量の指導法の問題点とその改善について」というテーマで研究を開始しました。初等中等理科教育では物理量の単位というものが余りにもおろそかにされてきているのですが,「それはなぜ起こったのか,どの様に改善すべきなのか」について研究を進めてくれると信じています。学部4年目の渡辺君は「原子・分子のエネルギー状態を理解するための発光・吸収スペクトル測定教材の開発」に取り組んでいます。最近,準備も整い,実験に入るところです。簡易分光器とCCDカメラ(デジタルカメラ)を使って,スペクトルの測定教材を開発する試みをしています。

大学運営活動関連

稚内北星学園大学でのネットワーク管理者講習への参加
 札幌校の情報ネットワーク委員会の委員の仕事(出張)として,稚内北星学園大学に,4泊5日缶詰状態で上記講習会に参加してきました。UNIXを本格的に学ぶ初めての機会でしたが,相当ハードな内容でした。そろそろ自分でもLinuxあたりを立ち上げて勉強しようかとも思うのですが,何せ時間がそちらの方にはまわせないのが現実です。

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