化学反応に伴う熱力学的状態関数変化量の測定 

-電気化学的手法を利用した教材開発-


  1. 研究概要
    1. 既存の、学部レベルの物理化学実験として広く使用されている「化学電池の起電力の温度依存性を利用した、化学反応に伴う熱力学的状態関数変化量の測定実験」、例えば「ダニエル電池」や「カドミウム-カドミウムアマルガム電池」には、次の点で問題がある。
      1. 起電力の温度依存性の程度が小さいために、実験精度がよくない。
      2. 水銀を使用するので薬品廃棄・処理の問題がある。また、健康上、水銀を使うには注意を要する。
      3. 扱われている化学反応がそれほど身近ではなく、また得られた状態関数変化量の意味を考察することが難しい。

    1. そこで、本研究では、これら問題点を改善し、「高精度かつ簡便な、化学反応に伴う熱力学的状態関数変化量の測定教材の開発」を、電気化学的手法を利用して行うことを目的としている。



  1. はじめに
    1. 化学反応に伴う熱力学的状態関数の変化量(ギブス自由エネルギー変化・エンタルピー変化・エントロピー変化)は、化学反応が自発的に進行しうる方向、反応の駆動力の大きさ、反応熱、反応に伴う系の乱雑度変化を表す指標として大変重要なものである。したがって、“化学反応はなぜ起こるのか”という本質を理解する上で、これら変化量の持つ意味を学ぶ事は欠かせない学習内容のはずである。本学化学専攻の学生は、物理化学(一)(二)の授業によりこれらを学んでいる。

    1. しかしながら、授業によりこれら理論的側面を学んだだけでは、学習内容がなかなか定着しないのも事実である。そこで、実験によって学生自ら手と頭を使って実験を行い、実験結果を自分で解析することで学習内容を定着させる必要がある。本学化学専攻の学生は、化学実験(三)でこれら一連の過程を体験している。

    1. 化学実験(三)で行っているのは、“ダニエル電池の起電力の温度依存性”を測定する実験である。この実験では、この電池反応の△Go,△So, △Hoを求める。25℃における△Goはこの温度における起電力から求められ、△Soは、ギブス-ヘルムホルツ式(起電力の温度依存性)から求められる。さらに、 △Hoは、△Goと△Soから求めることが可能である。特に、△Ho、すなわち定圧条件下における反応熱を直接測定しようとすれば、「ボンベ熱量計」という高価な装置を使用する必要があるが、この“電気化学的手法”では、それほど高価な装置は必要ない。また、この実験は比較的簡単であるし、特別危険な試薬なども使用しないという利点がある。しかしながら、この電池の起電力の温度依存性は大変小さいため(20Kの温度変化で数mVの変化しかない)、実験者による誤差も大きく、また実験結果の再現性も高くないという問題を抱えていた。

    1. この問題を克服する方法は、起電力の温度依存性が大きい系で実験を行うことである。このような系として教科書等で取り上げられているのは、“カドミウム-カドミウムアマルガム電池”である。この実験系の反応は、固体のカドミウムがカドミウムアマルガムになるという極めて簡単な反応であり、実験結果から算出した熱力学的状態関数の変化量の持つ意味を理解しやすいという利点もある。しかしながら、この実験系には別の問題がある。それは、この系では水銀を使用しなければならないという点である。水銀は、毒物に指定されており、最近では学生実験などでは、廃棄物処理の問題などからできるだけ使用しない流れになりつつある。

    1. そこで、本研究は、“ダニエル電池”・“カドミウム-カドミウムアマルガム電池”両方の問題点を解決あるいは改善した新たな実験教材を開発することを目的として行う。このような教材として、水素-酸素燃料電池の起電力の温度依存性の測定を取り上げたいと考えている(当初の予定を変更した)

  1. 水素-酸素燃料電池(溶液:硫酸)
    1. この電池は、左側の半電池(水素電極:Pt上)でH2(g)→ 2H+(l) + 2e- の反応がでおこり電子が放出され、右側の半電池(白金電極:Pt上)では、1/2O2(g) + 2H+(l) + 2e- → H2O(l) の反応により、水素電極から放出された電子を受け取り酸素が還元される。全反応としては、H2(g) + 1/2O2(g) → H2O(l)という反応がおこる。

    1. このように、この電池内反応は、「水素ガスと酸素ガスから水を作る」という誰もが知っている単純な反応である。又、水銀は使用しない。さらに、この反応の△Soの値は比較的大きな値が予想される、すなわちこの電池の起電力の温度依存性は比較的大きいことが予想される。また、この電池の起電力を表すネルンスト式からわかるように、水素ガス・酸素ガスの1atm条件下で起電力を測定することで直接的に△Go, △So, △Hoを決定できる。

    1. 問題点は、水素ガス・酸素ガスを完全には大気圧と等しくできないことである。なぜならば、水素ガス・酸素ガスの容器中の水蒸気圧も考慮しなければならないからである。しかしながら、比較的低温条件で実験を行うのであれば、この影響は無視できるであろう。

  1. 卒論で行う実験(三実験)とタイムスケジュール
    1. 実験I  〜ダニエル電池の起電力の温度依存性〜
      1. まず、化学実験(三)のテキスト
      2. http://s-mac-p92.sap.hokkyodai.ac.jp/info/ex3/ex3_text.html

        を参考に、ダニエル電池の起電力の温度依存性の実験を行う。この際、次の2点を留意する。

        1. 何度か実験してみて、実験ごとの再現性を確認する。
        2. 亜鉛電極をアマルガム化した場合としない場合とでの実験を行ってみる。
      1. 実験結果を基に、この電池反応の熱力学的状態関数の変化量を出すとともに、この系での実験の問題点について考察する。
      2. 実験・考察は9月頭をめどに終える。

    2. 実験II 〜カドミウム-カドミウムアマルガム電池の起電力の温度依存性〜
      1. 配布済みの英語テキストを参考に実験を行う。
        1. 何度か実験を行い再現性を確認する
      1. 実験結果から、この電池反応の熱力学的状態関数の変化量を出すとともに、実際に実験を行った際の問題点などをまとめる。
      2. 実験・考察は10月頭をめどに終える。

    3. 研究室内ゼミでの中間報告(10月初旬〜中旬)
      1. 自分の卒業研究の目的・理論的背景・途中経過(考察も含む)を教官・院生の前で報告する。
      2. レジュメ作成のこと

    4. 実験III 〜水素-酸素燃料電池の起電力の温度依存性〜
      1. 実験手順
        1. 各電極は、注射器の筒の上からPt線を挿入することで作成
        2. 溶液は1M硫酸
        3. 水素・酸素の発生は電気分解により行う
        4. 温度変化の方法は実験Iと同様
        5. 起電力の温度依存性の測定、0℃〜30℃。何度か実験し再現性を確認。
      2. 実験結果から、この電池反応の熱力学的状態関数の変化量を出す。
      3. 実験結果と文献値を比較し、この実験を評価。
      4. △Go, △So, △Hoの値の持つ意味を、その符号および大きさから考察
      5. 実験・考察は11月末までに終える。

    5. 中間発表レジュメおよび発表練習
      1. 12月初旬から中旬
      2. 実験IIまで報告

    6. 卒論書き開始
      1. 中間発表終了後ただちに開始
      2. 研究全体のまとめ
      3. 1月中には1度最後まで書き終える。

    7. 卒論本発表 (2月中旬)
      1. 2月頭より準備開始
      2. 同時に、卒論の修正も行う。

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