卒業研究を始めるにあたって

卒業研究の目的

物理化学研究室 田口 哲


4年間の総括

  私は、学部レベルの卒業研究は、「研究結果を出すことだけ」が主たる目的だとは考えていない(研究結果を出さないとは言っていないので注意)。3年間色々な分野のことについて学んできたであろうが、学んだ個々の内容(物理化学とか有機化学とか分析化学とか・・)を総動員して、一つの化学に関するテーマを題材として、教育大学4年間の教育の総仕上げを行うのが卒業研究の目的だと考えている*。

論理的思考力の育成

 建物に例えるならば、今までは、柱や壁やドアをちゃんと作る練習をしてきてそれが出来るようになった(単位が認定されるとはそういう事)のだから、それら部品を使って一つの建物を立体的に組み立てる訓練をしてみようと言う話である。その組立て方(=論理的思考力)を学ぶのであって、その建物を売ることを自体を目的としているのではない。組立て方(=論理的思考力)の訓練を行う過程で、結果として新しい成果が得られれば、それは素晴らしいことである。

研究結果を出す事 だけが目的ではない

 何でこんな事を言うかと言うと、教官に言われた通りに実験して結果さえ出せばよいという考えは(もし持っているのであれば)止めてもらいたいからである。“作業としてだけ”実験をやるのではなく、実験結果を自分の頭でちゃんと考えてもらいたいと考えている。このような当たり前の事を今さらあえて言うのは、本学や他大学の基礎学生実験を担当してきた私の経験上、“作業としてだけ”実験をやっている学生が少なからずいることを知っているからである。実験結果を用いて、そのデータが意味することを自分の頭で考えるためには、それ相当の「勉強」が必要なことは覚悟しなければならないし、その努力を惜しんではならない(慌ててたくさんのことをヤレと言っているのではない)。学部のうちに「考え方の基礎」を身につけておかないと(我々は化学を題材として考え方の訓練を行うが、それは広い領域で適用されうるであろう)、卒業して教員になれば(他の職業でもそうだと思うが)勉強している時間はなかなか作れないのが現実である。

どうやって分かりやすく伝えるか

 もう一つ卒業研究を行う大事な目的は、自分の考察結果を他人に分かり易く知ってもらう、プレゼンテーション技術の訓練であろう。というのは、将来教員になる者にとって、分かり易く他人に伝える技術は身につけていなければならない資質の一つだと考えるからである。卒業研究で言えば、中間発表や本発表のレジュメ作成・卒業論文執筆・OHPを用いた口頭発表がこのプレゼンテーションにあたる。卒業研究を通してこれらを鍛える(簡単そうに思うかもしれないが、OHPシートの作成法一つとっても時間がかかる大変なことである)。特に、中間発表や本発表といった口頭発表では、教官から1年目学生までといった研究に対する理解力が全く異なる相手を前にして発表しなければならない。どの情報をどの様な順番でどの手段(文章・グラフ・表・図)を用いて報告を行うかにより、聞き手の理解度は違ってくる。理解力に応じて、(理解の程度に差が出来ることはやむを得ないが)少しでも分かってもらうような発表をするには、綿密な下準備が必要である。
 普段から、実験結果や考察は、初期の段階からパソコンを使って図・表・文章としてまとめておくこと。そうすれば、後半になって慌てることはない。文章にする際は、どうやったら「他人に分かり易く伝わるか」を常に考えてまとめること。


*最近、「このような専門的過ぎる?勉強(研究)をやっても教育現場では役に立たん!」的な事を言う人が目につく。私に言わせれば勉強が嫌いでやりたくない人の言い訳にしか聞こえない。深い学問的内容(本質的事項・考え方)を学ぶよりも、小中学生に教える「教え方」をもっと教えてくれと言う。私は、教え方を学ぶことを否定する立場には立っていないし、上にも述べたようにそれは重要なことだと考えている。確かに、小・中学校の授業では卒業研究でやるような事を直接的に教えることはないであろう。しかし、「ない袖は振れない」のである。あるテーマについて深く調べたことがある人とそうでない人では、「教科を教える」教員としてのバックグラウンド(=基礎学力)は天と地の差であろう。例えば、中学校や高等学校の理科(化学)の中で「化学電池」について扱う単元があるが、この電池の動作機構については、専門的に物理化学を学んだ経験のある教師でなければ生徒に嘘を教えかねない危険性がある。詳細については、理科教育メーリングリストに私が投稿した文およびそれに対する他の方のコメントを参照していただきたい。